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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)6891号 判決

原告 朝日工業株式会社

右代表者代表取締役 木村友之助

右訴訟代理人弁護士 佐和洋亮

被告 不二管工株式会社

右代表者代表取締役 谷口操

被告 岩川健吉

被告 川崎吹付塗装工業株式会社

右代表者代表取締役 川崎泰男

被告三名訴訟代理人弁護士 保持清

同 舟木友比古

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 東京地方裁判所昭和五九年(リ)第一九六号債権差押事件の配当について、同裁判所が作成した配当表を変更し、原告に更に金三一万一八〇九円を配当する。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告を債権者、訴外丸一建設株式会社を債務者、訴外田中貞一を第三債務者とする東京地方裁判所昭和五九年(リ)第一九六号債権差押事件の配当手続において、同裁判所は昭和五九年六月一八日別表記載のとおり配当表を作成した。

2. 原告は一二八〇万円の執行力ある債務名義を有していたが、請求債権を差押債権に合わせて同額の八〇〇万円として差押・転付命令の申立をしたものであるところ、その配当手続において右請求債権額を基準として前記配当表が作成されたものである。

3. しかしながら、原告は、手続の便宜のために、請求債権額を差押債権額に合わせて差押・転付命令の申立をしたところ、結果的に配当手続に移行したものであり、このような場合に請求債権額を基準として配当をすると不公平な結果となる。

原告には、債務名義に表示された金額である一二八〇万円を基準にして一五三万九八八六円が配当されるべきであり、前記配当額との差額三一万一八〇九円につき追加して配当すべく配当表を変更しなければならない。

4. そこで原告は前記事件の配当期日において配当表に異議を申出た。

5. よって請求の趣旨記載の判決を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因1、2及び4の事実は認める。同3は争う。

債務名義に表示された債権額の全額を請求債権とするかその一部を請求債権とするかは執行債権者の自由な選択に委ねられているのであって、その結果執行債権者が不利益を受けても、これを不公平というには当たらない。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告を債権者、訴外丸一建設株式会社を債務者、訴外田中貞一を第三債務者とする東京地方裁判所昭和五九年(リ)第一九六号債権差押事件の配当手続において、同裁判所が昭和五九年六月一八日別表記載のとおり配当表を作成したこと、原告は一二八〇万円の執行力ある債務名義を有していたが、請求債権を差押債権に合わせて同額の八〇〇万円として差押・転付命令の申立をしたところ、その配当手続において右請求債権額を基準として前記配当表が作成されたものであること、及び、原告が前記事件の配当期日に配当表に異議を申出たことは、当事者間に争いがない。

二、そこで、請求債権額を差押債権額に合わせて差押・転付命令の申立がなされ、配当手続に移行した場合に、請求債権額を基準として配当をすると不公平な結果となる旨の原告の主張について検討する。

債務名義に表示された債権額が差押債権額を超過している場合であっても、請求債権額の決定は申立債権者の自由な選択に委ねられており、全額を請求債権額とすることに妨げはないのであるから、あえて請求債権額を内金である差押債権額に合わせた差押債権者が配当手続において不利益を受けることがあってもやむを得ないというべきであり、配当手続への移行は通常予想されるところである。原告が債権全額につき判決正本を提出しており、内金請求の理由が裁判所に認識できたとしても、この理に変りはない。

民事執行法一六五条は、配当を受けるべき債権者は差押・仮差押の執行又は配当要求をした債権者としているが、配当表作成の資料を確定するため、請求債権額を特定すべきことを当然の前提としているものと解すべきである。なお、最高裁昭和四一年(オ)第二五五号同四七年六月三〇日第二小法廷判決(民集二六巻五号一一一一頁)は、不動産の任意競売の申立人は、被担保債権につき、申立書に表示した債権の額に制限されないで、競売代金から配当を受けることができる旨判示しているが、これは、旧競売法二四条二項三号に係るものであって、本件に適切でない。

以上の次第で、請求債権額を基準に行われた本件配当手続は適法である。

三、よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大前和俊 裁判官 高橋祥子 喜多村勝徳)

〈以下省略〉

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